CaO-SiO2-Al2O3系スラグ中の塩素の存在形態と水溶液への溶出挙動
伊藤 真明 森田 一樹
近年、新たな廃棄物処理プロセスの開発が進められ、高炉還元剤としてのプラスチックのリサイクルなどが行われている。高炉プロセスにはプラスチックは塩 素を除去して供給されているが、予備処理負荷の低減や今後の処理対象の拡大へ向けて、高温炉内での塩素の挙動は把握される必要がある。系内に共存する塩素 は溶融スラグ中にCl-イオンの形で溶解することが知られているが、固化したスラグ中での塩素の存在形態や水溶液への溶出挙動についての知見は十分ではな い。そこで本研究ではスラグ中に溶解した塩素の存在形態と水溶液に対する溶出挙動について調査を行った。
まず、本研究ではCaO-SiO2-Al2O3-Cl系の模擬スラグ中の塩素含有相を同定し、その水溶液への溶出挙動を調査した。様々な結晶化率の模擬 スラグをXRDおよびSEM-EDXに供し、塩素はCaO・SiO2、2CaO・Al2O3・SiO2、CaO・Al2O3・2SiO2のような結晶相で はほとんど検出されなかったのに対し、非晶質相および9CaO・6Al2O3・5SiO2・CaCl2相に濃化されることが明らかになった。この塩素を含 有する主要な2相に対して溶出試験を行い、その溶出挙動の時間依存性を調査した結果、溶出速度は9CaO・6Al2O3・5SiO2・CaCl2相の方が 速く、塩素の溶出量もまた9CaO・6Al2O3・5SiO2・CaCl2相の方が多いことがわかった(Fig. 1)。さらに模擬スラグからの溶出は、結晶化率の増加とともに促進されるという結果が得られた(Fig. 2)。一方、塩素を添加した高炉スラグ中の結晶相をXRDおよびSEM-EDXによって同定し、melilite (Ca2(Al, Mg)(Si, Al)2O7)相および9CaO・6SiO2・CaCl2相の存在を明らかにした。高炉スラグの場合も模擬スラグの場合と同様に結晶化率の増加は塩素の溶出を促進した。
Fig.1 Dependence of chlorine dissolution on pH.
Fig.2 Relationship between the fraction of crystallization and the concentration of the solute dissolved.