東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻

森田研究室

~材料製造・循環工学研究室~

Si-Al融液を用いたSiの低温凝固精製に関する物理化学

吉川 健 有村健太郎 森田一樹


背 景

近年地球環境問題に励起され、“クリーンエネルギー”の太陽電池生産量は著しく増加している。中でも多結晶シリコン系の伸びは著しいが、依然半導体産業か らの供給が大半を占め原料不足が予測される。今後の需要拡大に伴う高純度シリコンの価格高騰、原料供給の不安定性が懸念されるため、安定かつ安価な原料供 給の持続が必要である。近年金属シリコンを出発原料とした冶金学的シリコン精製プロセスが開発されたが、高温長時間の精製を行っており、さらなるコスト削 減が望まれている。
さらなる低コストプロセスに関し、Si中不純物元素の固溶度(Fig.1)からヒントを得た。固溶度はシリコンの融点より温度が下がるにつれ増加し、 1000~1200℃より減少するという特異な挙動を示す。このことから低温での不純物除去が有効であることが示唆され、またプロセスの低温化による低コ スト化が期待されたため低温精製法に着目した。低温精製のため原料シリコンの溶融合金化を考え、合金元素としてSiとの共晶温度の低いAlを用い、Si- Al系融液からのSiの低温凝固精製を検討するため、物理化学的検討を行っている。このように低温プロセスを主体とする低コストの精製法の開発に挑戦して おり、安価なシリコン原料を大量に供給することができる製造プロセスを提唱し、シリコン太陽電池の普及によるエネルギー問題の緩和へ貢献することを目標と している。

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Fig. 1. Solid solubilities of impurity elements in silicon.*

これまでの研究と今後の方針

これまで本精製法での不純物濃度低減を検討するため、固体Si、Si-Al融液中での不純物元素の熱力学的性質に焦点を当て研究を行ってきた。Si-Al 融液からのSiの凝固精製においては精製Si中にプロセス温度での固溶度に相当する濃度のAlが混入するため、これまでの研究でFig.2に示した Temperature Gradient Zone Melting (TGZM)法を用いてSi中Alの固溶度の測定を行った[文献1]。またSi中に導入されるAl濃度の低減を目的とし、Si-Al系にCuを添加した Si-Al-Cu系融液と平衡する固体Si中Al濃度の測定[文献2]ならびにSi-Al-Cu融液中Al、Cuの活量測定を行った。融液へのCuの添加 で精製Si中Al濃度が減少し、またCuの汚染は問題とならないことが確かめられた。さらに本精製法でのP除去を検討するため、Si-Al融液と固体Si 間の分配係数を1173~1373Kで測定し、0.1以下の値を得た[文献3]。Si固液間の偏析係数0.35より小さな値であり、これによりPは1オー ダー低減されることが確かめられた。B除去に関しては現在研究中である。
この精製法に関し熱力学的な検討においては十分な高純度化が予測される。今後Si-Al融液からSiの凝固精製実験としてSi-Al融液から固体Siの一 方向凝固による実証試験を試み、高純度化を確認し、さらに複雑な凝固現象から生じる問題点を解決し、プロセス構築を考える。

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[文献1] T. Yoshikawa and K. Morita, “Solid Solubilities and Thermodynamic Properties of Aluminum in Solid Silicon”, Journal of Electrochemical Society 150 (2003), G465-G468
[文献2] T. Yoshikawa and K. Morita, “Thermodynamics of solid silicon equilibrated with Si-Al-Cu liquidalloys”, Journal of Physics and Chemistry of Solids, submitted.
[文献3] T. Yoshikawa and K. Morita, “Thermodynamics of phosphorus in the solidification refining with the Si-Al melts”, Science and Technology of Advanced Materials, submitted.

*: F.A. Trumbore, Bell System Technical Journal, 39, 206 (1960).